竹村先生インタビュー記事ACEI投与のタイミング
Q
EPIC study1)について、先生の見解を教えてください
私はEPICstudyのリサーチグループに所属していました。この研究の組み込み基準は、ACVIM(米
国獣医内科学会)ガイドライン:ステージB2で、いわゆるEPICリモデリングというかなりしっかりし
た左心拡大があり、しかも無徴候であるという
ものでした。実際、EPICリモデリングの症例が
いてもきちんと問診をすると運動不耐性があ
り、心不全徴候がある場合がほとんどでした。
私の考えですが、EPICリモデリングがあるが心
不全徴候はない、という犬はまれではないかと
感じています。つまり研究結果はEPICリモデリ
ングが認められており、かつ心不全徴候のない
犬が対象なので、臨床硯場ではかなりマイナー
な犬が対象になっていると受け止めています。
ですから私は自身の診療においてEPICstudy
の影響はあまり受けていません。例えば、EPIC
リモデリングがなくても、問診により運動不耐
性があれば、ピモベンダンを使っています。
Q EPIC study発表前後での変化ですが、欧米ではACEIの使用が若干減少し、
ACEIとピモベンダンの併用がかなり増加したとの報告2)がありますが、
日本ではACEIの使用に変化は感じられますか。
私の感覚ですが、ACEIの投与にそこまでの変化があるような印象はありません。
ただ、EPICstudyの報告によって「ACEIは必要ない」、「ピモベンダン単剤で良い」と判断する
先生が増えている可能性はあります。
Q 欧米ではEPICstudy発表後もACEIが
ステージB2でよく使用されている理由は何でしょうか?
ACEI投与は効果がなかったという論文がありますが、これらの多くはACElの効果が得られるには
投与量が少なかったのではないかと考えています。欧米の先生方はACElの投与量が多いため、
効果を実感しやすいこともあると思いますし、実際に2021年に発表されたWard氏らの研究結果
では、ACElの用量と予後について検討されていますが、ACEIの用量が多いと初発のうっ血性心不全
(CHF)から死亡までの期間が延長することが報告されています3)。
実際、私の経験では推奨用量の2倍量で投与した場合に効果を実感しています。ACEIに用量依存
性はあると思いますが、ACEIの中でもアピナックは肺動脈楔圧や心拍数が用量依存的に低下する
ことが報告されています叫このように用量依存性の効果がデータとしてきちんと出ている薬剤は
使いやすいと思います。また、アヒ°ナックの用法・用量は1~3mg/kg/日SID~BIDと範囲が広く、
例えば1.5mg/kgBIDと高用量で投与しても適応内の範囲で使用できる点も良いと思います。
現在ステージB1、B2に対してACEIを投与することの有益性は大規模臨床試験データとして出ていませんが、
高用量での臨床試験を行えば、ポジティブな結果が出るのではないかと思います。
様々な背景から現在そのような研究は行われていませんが、データがない=効果がないとは考えていません。
私は自身の経験からステージB2から高用量でACEIをBIDで投与しています。
Q
ACEIの種類を変更すると症状の改善が認められることがあると聞きますが
先生はACEIの種類を変更することはありますか?
私は2次診療施設で診療しているため、紹介されてきた時点ですでにACEIを投与されていることが
ほとんどです。その中で種類を変更すると、かかりつけ医に対するご家族の不信感にもつながる
可能性があるため、かかりつけ医で処方されているACEIの種類を変更することはありません。
種類は変更せずに投与量だけ増やすことはあります。
Q ACEIはどのタイミングから使いますか?
まずステージBで運動不耐性がない無徴候症例に対してですが、ご家族の中には、心配でとにかく
デメリットがないのであれば、できることはすべてやりたいという理由で二次診療を受診される方が
少なからずいます。そのような場合は無徴候であっても長期的視点を考慮して推奨用量でACEIの
投薬を開始します。
一方で問診により運動不耐性がある場合ですが、私は、運動不耐性は心不全徴候だと考えています
ので、うっ血性心不全ではないけれども心不全の兆候があると判断し、ACElの高用量とピモベ
ンダンを併用します。
実際に使用してみると、運動不耐性の改善度合いにご家族も驚かれることが良くあります。例えば
「若い頃のように、帰宅した主人の元ヘ一番に駆け寄るようになりました」などの声も聞きます。
私が言いたいのはACVIMガイドラインに沿ってエコー検査により分類することも大切ですが、
分類による投薬開始時期に縛られるのではなく、それぞれの症例の臨床症状をきちんと把握し、
その症例に本来必要な、より早期のタイミングから治療に介入することが重要と考えています。
Q “運動不耐性’'がカギになると思いますが、
問診で運動不耐性の有無を判断するときのポイントを教えてください
一番よくやるのは、ご家族に若い頃との比較をしてもらうことですね。
先ほど話したようにご家族の帰宅時の行動の変化や、食事を用意する時に昔は興奮して後肢2本立ち
や走り回っていたなどの行動をしていたのであれば、それを現在もできているかなどを確認します。
散歩時間も聞きますが、気温などに影響される部分も大きいため、あまり重視していません。
もちろん、上記の変化は加齢性の変化という可能性も否定はできません。運動不耐性との区別が
つかない場合は、試験的に投薬を開始して1~2週間後に、行動変化があるかどうかを見てもらう
こともあります。効果がなければ休薬するというのもひとつの選択肢です。このように問診で全ての
運動不耐性が分かるとは思っていません。しかし問診は非常に重要な診察です。聴診と問診だけでも
わかることはたくさんある!ということを一人でも多くの学生や若い先生方に知ってもらいたいですね。
Q
ACEIを使用するうえで注意すべき点はありますか
ひとつは脱水です。僧帽弁閉鎖不全症の症例は同時に慢性腎臓病を患っていることも比較的多く、
脱水している状態でのACEIの投与は腎臓にとってよくないですね。ですから高用量で処方する時は
しっかり水分を摂らせるように伝えています。また、水分とナトリウムによってうっ血が引き起こされ
ると考えているため、ナトリウムを摂取しすぎないようお願いしています。
1) Journal of Veterinary Internal Medicine. 30(6):1765-1779,2016 A Boswood et .al
2) Journal of Veterinary Cardiology. 41: 99-120 2022 A Franchiniet al.
3) Journal of Veterinary Internal Medicine. 35(5): 2102-2111,2021 Jessica L. Ward et al.
4) Veterinary Journal. 245: 7-11 2019 S. Goya et al.
この記事を見ている人はこちらの記事も見ています
竹村先生インタビュー記事ACEI投与のタイミング
アピナック対談 MMVDに対するACE阻害剤を見直す
