僧帽弁閉鎖不全症の診断と治療 ー2020年以降の動向ー

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コロナ禍により多くのことが不便になりましたが、その期間に循環器研究はどのように進んだでしょうか。
「犬、僧帽弁」とキーワード検索し、2020~2022年7月の期間でヒットした約170本の論文から、X線検査、超音波検査、
バイオマーカー検査、そして気になる内科治療についてご紹介します。

■ 胸部X線検査
VHS
心臓の検査を行っていると、心臓が大きく見え、気管の挙上もあり、心拡大があると考えられる状態でありながら、
実際にVHSを測ると10に至らないという、見た目とは違う症例を経験することがあります。
この原因と考えられるものとして、以下に注意する必要があります。
・タイミング(心周期、呼吸)
・肥満?
・遺伝的な胸郭の形状(例:漏斗胸、扁平な胸郭)
・品種特異性(表1)1 ~ 3
見た目と実測値が異なることがあるので、必ずVHSを測定しておきましょう。

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また、品種によっては正常でもVHSが10.5を超えていることがあるため、超音波検査を用いた精密検査が必要な
ことがあります。

VLAS
X線検査で評価する左心房の指標VLAS(脊椎左房サイズ)には、あまり犬種差はないようです。正常参考値は2.0
未満程度です。2019年に発表されたアメリカ獣医内科学会(ACVIM)ガイドラインでは、3.0を超えた場合に
左房拡大と示されました4。この指標に当初は困惑した先生も多かったでしょう。カットオフ値=3.0は本当に正確なのか
という疑問を検証する論文が、翌年の2020 年に日本(Mikawa S, J Vet Cardiol., 2020)と海外(Poad MH, J Vet Intern Med.,
2020)で発表されています5, 6
両論文のグラフを、超音波検査LA/Ao比のカットオフ値1.6 以上(左房拡大しているグループ)と、VLAS 3.0以上を示した線で分けると、
VLASは3.0未満であっても超音波検査で左房拡大となっている例が多く、VLAS 3.0だけで判断すると、初期の左房拡大を見逃すリスクがあるこ
とに気付きます。
両論文では新たなカットオフ値を検証しており、Poadらは2.6、Mikawaらは2.5を推奨しています。それぞれ違う研究、
違う母集団で解析し、近い数値となるということは、VLAS≧2.5のほうが左心房拡大を見逃しにくいのではないかと考えられます。

■ 超音波検査
Vena contracta(縮流部幅)測定
超音波検査に関連した研究は非常に多いですが、私が注 目したのはVena contracta(縮流部幅)という指標です。
左心室から左心房側に向かって噴出した僧帽弁の逆流ジェットの幅が一番狭くなる場所をVena contractaと呼びます( 図1)。

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カラードプラ検査で折り返し速度を40cm/s程度に設定すると、逆流血流がはっきり見えます。
この幅が広いほど逆流量が多いということです。
Vena contractaの幅はPISA 法で計測した逆流量と非常に高い相関を示すことが大きなポイントです7, 8
逆流量が多ければ心臓に負担がかかり重症化しやすい可能性があります。僧帽弁逆流量の推定は人では心臓手術の判断基準
として使われている指標です。Vena contracta幅の広い症例は予後が悪いことも示されていますので、計測すること
で僧帽弁逆流量や予後の簡便な指標としてわかることもあると期待しています。

肺エコー検査を用いた肺水腫の診断
たとえば重度な心拡大があって、肺野の不透過性も亢進した症例で肺エコー検査をすると、いわゆるBラインと呼ばれる胸膜から
下向きに高エコー性の白いビームが描出されます。心原性肺水腫のときにはほぼ間違いなくBラインが陽性になります。
しかし「Bラインがあれば肺水腫といってよい」という風潮は危惧しています。肺水腫があればBラインは出ますが、Bラインが
あれば絶対に肺水腫というわけではない。他にも様々な要因があるということが、Lamらによって2022年に報告されています10
Lamらは、肺水腫を起こしたことのないMMVDステージB2の小型犬を対象に研究を行いました。ステージB2で咳をしている症例では、
Bラインに似た異常所見が現れるケースがあります。これは下部気道疾患が大きな要因で、気管支炎や気道疾患がある症例の20%で
Bラインがみられます。また、胸膜の肥厚、不整、無気肺などがあってもBラインが現れます。このため、Bラインが現れた場合は
安易に心原性肺水腫と診断せず、精査を行うべきと考えます。

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■ バイオマーカー検査
NT-proANP
心疾患のバイオマーカーは、ANP、NT-proBNP、トロポニン等が先発して利用されており、当院でもこれまでMMVDの
バイオマーカーとしてANPを測定していました。ただ、ANPは生理活性があるため血中半減期が速いのが難点でした。
2021年に住友ファーマアニマルヘルス株式会社からリリースされたNT-proANPは、血中半減期が長く、取り扱いが簡単です。
MMVDの犬を対象に、ACVIMガイドラインに従って4グループに分け、NT-proANP 血中濃度を測定すると、重症例ほどNT-proANP
濃度が高くなります(図2)。これらは、既存のANPやNT-proBNPと同じ反応です。
既存のバイオマーカーと比較し、臨床的意義がどうなっているかを調べました。ANP、NT-proBNP、トロポニンと比較し、
ステージ別にAUCの差を見たところ、トロポニンに対してはいずれも優位であり、ANP、NT-proBNPとは同等であるという結果でした。
優れたマーカーと言えますので、ぜひご利用いただければと思います。

MicroRNA(miRNA)
現在、私が注目しているのはMicroRNA(miRNA)というバイオマーカーです12。細胞内に存在する2~25塩基の非常に短い一本鎖RNAです。
遺伝子の発現制御に関わっており、生理的な機能を持っています。ただの遺伝子の断片ではなく、生物学的な反応を評価できるのが大きな
ポイントです。2021年には、MMVD や動脈管開存症(PDA)、肺動脈狭窄症(PS)を対象に心臓病の際に変化するmiRNAが発表されました。
心疾患がある場合、特定のmiRNAが有意に増えるという結果が示されています。また遠心性肥大や求心性肥大があれば増減するmiRNAも
報告されています。まだ発展途上であるため、研究の蓄積に期待しています。

■ 内科治療
EPIC Study前後での処方の変化
Franchini らは、EPIC Study公表の前後で、専門医たちの処方パターンが変わったかどうかを解析しました13
EPIC Studyの後、ステージB2の犬では以下のように処方が変化しています。
・ACE 阻害薬:15%減少
・ピモベンダン:4倍に増加
・スピロノラクトン:30%減少
ACE阻害薬は、減少してはいますが、私が想像していたよりは使用されている印象です。ピモベンダンの使用増加には合理的な理由があり、
当然だと思われます。スピロノラクトンは関係ないにもかかわらず3割減少しています。ピモベンダンの使用が増えた影響でしょう。

ステージB1におけるピモベンダンの効果
ピモベンダンは、EPIC StudyではステージB2での処方が推奨されていますが、B1での処方に悩むときもあります。そこに注目したKleinらの
研究で
14 、ステージB1の犬15頭を対象に臨床試験を行っています。
結果として、ピモベンダンを使用することでLVIDDN(左室拡張末期内径)は有意に減少していました。NTproBNPの血中濃度も低下しており、
心臓にかかる負担が減ったことを意味します。さらに飼い主からの聞き取りで、プラセボ群と比較してピモベンダンを処方した犬の活動性のほうがよいという結果でした。臨床徴候が出はじめているが、検査ではステージB2に至らないという場合の選択肢として、ピモベンダンの使用を捉えています。長期的な予後はわかりませんが、臨床的効果としてこうした報告があることは、飼い主にとっても安心材料になるでしょう。

ACE阻害薬の有効性
ACE阻害薬については、最近ではMMVDの犬に対して延命効果、心不全の発生遅延効果はないという臨床結果が増えています15 ~ 18
臨床データをさらに集約したメタ解析という研究方法でも、メリットが特に認められないという結果になっています19
しかし依然として使用される機会の多い薬でもあり、ACE阻害薬の高用量投与に注目した研究が2021年に発表されました20
結果として、高用量群でMMVD生存期間が有意に延長するとされています。多変量解析では、1日1回投与より1日2回投与で
予後改善(HR=0.3)とされています。この研究から、過去の研究で生存期間が延長しなかったのは、用量の問題ではないかということが考えられます。ACE阻害薬は血管拡張作用があり、蛋白尿を抑制する効果が期待できる用法・用量について認可を取っており、心不全の犬をターゲットとした用量は設定していません。心不全の犬の治療効果を求める場合は高用量が必要ではないのかということを、臨床研究していく必要があります。私たちも2018年にアラセプリルの臨床効果についてターゲットを絞った研究をしました21。このときは発咳の改善に注目し、図3のような結果となりました。アラセプリル
の使用により、半数以上の症例で心不全の合併症である発咳が減少しました。ちなみに左心房拡大を起こしていない(LA/Ao<1.6)MMVD犬の72.7%で咳が減っています。

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ACE阻害薬を使用するタイミング
さらにアラセプリル使用について、効果的な発咳減少の条件を調べました21。軽度~中等度の心負荷がかかる状態で発咳がある場合、
アラセプリルを投与すると症状が改善する可能性が高いと期待できます。効果が目に見えると飼い主にとっても投薬継続の動機になりますので、
アラセプリル使用のタイミングとして考えられます。2022 年、GordonらがACE阻害薬を使うタイミングについてコメントしています22
〈ステージB2〉
・蛋白尿や高血圧のある場合
・すでにRAA系阻害薬を内服している場合
・ピモベンダンを服用中で、心拡大が進行する場合
 例:6ヵ月でVHS>0.5の増加
・ピモベンダンが拒否された場合
・発咳を伴う場合

〈ステージC〉
・副作用がなければルーチンに使用
ACE阻害薬の使用について、こうした情報も検討材料にできると思います。

ACE阻害薬とスピロノラクトンの併用
ACE阻害薬が犬の長期的な予後を改善できないのであれば、ACE阻害薬とスピロノラクトンを併用し、包括的にRAA系を阻害すれば
効果があるかもしれません。この研究をしたのがDELAY Studyです23。この研究では、ステージB2の犬を対象にベナゼプリルとスピロノラクトン
を使用し、その他の心臓薬はすべて禁止として予後を解析しています。

結果として、CHF・心不全死の発生は差がありませんでした。しかしNT-proBNP、LA/AO比、LVIDDNは低下し、二次的に心臓の負荷を軽減させる効果は
期待できます。ステージCの犬にベナゼプリルとスピロノラクトンを併用する研究も報告されています24。ピモベンダンは中止、フロセミドは標準治療として許容しています。結果として、スピロノラクトン+ベナゼプリル群はエンドポイントまでの中央期間が伸び(105 日vs 69 日, P=0.02)、心不全の悪化や死亡のリスクが27%減少(HR=0.73, P=0.02)となりました。ステージB2からの併用では差がなく、ステージCからは予後がよいということです。害のある薬ではなく、効果があるなら使用するべきと考えています。

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3.  Bagardi M, Breed-specifi c vertebral heart score, vertebral left atrial size, and radiographic left atrial dimension in Cavalier King Charles Spaniels:                Reference interval study, Vet Radiol Ultrasound, 2022
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5.  Poad MH et al, Utility of radiographic measurements to predict echocardiographic left heart enlargement in dogs with preclinical myxomatous                    mitral   valve disease, J Vet Intern Med, 2020
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18. Gerhard Wess, Efficacy of adding ramipril (VAsotop) to the combination of furosemide (Lasix) and pimobendan(VEtmedin) in dogs with mitral valve degeneration: The VALVE trial, J Vet Intern Med, 2020
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23. Borgarelli M, DELay of Appearance of sYmptoms of Canine Degenerative Mitral Valve Disease Treated with Spironolactone and Benazepril: the DELAY Study, J Vet Cardiol, 2020
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