第5回 VET向け症例検討会 page01
集計結果と解説
縮瞳、角膜潰瘍及び白濁が認められる症例
【出題・監修】どうぶつ眼科EyeVet 小林 一郎 先生
【症例】トイプードル(アプリコット)6歳10カ月齢 メス(避妊済み)
1カ月程前より右眼を閉じているということで近医を受診。縮瞳、角膜潰瘍(フルオレセイン染色陽性)及び白濁が認められ、抗生物質(ゲンタマイシン)点眼および抗コラゲナーゼ点眼開始し、エリザベスカラー装着。
1週間後、白濁が小さくなり潰瘍も改善(フルオレセイン染色陰性)し、点眼継続。
2週間後に羞明が再度認められたことから転院し、抗生物質(オフロキサシン)、タチオン及びパピテイン点眼開始。再発を繰り返し、現在に至る。
- 身体所見
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体重4.5kg、元気食欲などに異常は認められず、便尿も正常と一般状態は良好です。
右眼の羞明は以前と変わらず認められています。 - 前眼部検査所見
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右眼は7-11 時方向角膜上皮が広域にわたり剥離しているのが認められました。
潰瘍周辺部は浮腫により混濁していました。結膜及び強膜が軽度に充血しているのが認められました。 左眼に特に異常は認められませんでした。 【図1】【図2】【図1】
【図2】
- 眼科一般検査所見
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右 眼 左 眼 シルマーティアテスト(STT) 23mm/min 20mm/min 眼圧(IOP) 10mmHg 09mmHg 瞳孔対光反射(PLR):直接 (+) (+) 瞳孔対光反射(PLR):関節 (+) (+) 威嚇反射 (+) (+) 眩目反射 (+) (+) - 角膜フルオレセイン染色所見
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右眼角膜耳側にフルオレセイン染色陽性領域が認められました。
- 眼底検査
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左右眼共に特に異常は認められませんでした。
症例呈示のポイント
本症例の臨床上のポイントは『羞明』と『角膜上皮性剥離』と私は考えます。『長期間治癒しない角膜潰瘍』、『再発と痛みを伴う難治性の角膜潰瘍』の主訴でかかりつけ医から当施設がご紹介いただくことが多い、難治性角膜潰瘍、ボクサー潰瘍、又はSCCEDs(Spontaneous Chronic Corneal Epithelial Defects)といわれている症例です。原因は角膜1カ月程前より右眼を閉じているということで近医を受診。
縮瞳、角膜潰瘍(フルオレセイン染色陽性)及び白濁が認められ、抗生物質(ゲンタマイシン)点眼および抗コラゲナーゼ点眼開始し、エリザベスカラー装着。
1週間後、白濁が小さくなり潰瘍も改善(フルオレセイン染色陰性)し、点眼継続。2週間後に羞明が再度認められたことから転院し、抗生物質(オフロキサシン)、タチオン及びパピテイン点眼開始。 再発を繰り返し、現在に至る。
上皮と実質との接合不全によるものとされており、点眼治療のみでは難治症例となることが多いようです。そこで本症例ではいくつかあるSCCEDsに対応する処置の中でも比較的容易に処置できて、瘢痕の少ないとされるデブライド処置と点眼治療を選択しました。
診断へのアプローチと経過
臨床上、私が遭遇する羞明の主な原因には眼周囲による痛み、角膜による痛み、眼内による痛みがあります。眼周囲による痛みとは眼瞼や周囲皮膚が原因となる疾患です。角膜による痛みとは角膜神経を刺激するような眼瞼内反、異所性睫毛などの疾患になります。眼内による痛みとは毛様体痙攣による痛みでぶどう膜炎などの疾患が考えられます。角膜潰瘍についてですが外傷、融解性、上皮と実質接合不全など原因は多岐にわたりますが、本症例での特徴は【図3】のような剥離した角膜上皮の存在です。
【図4】は上皮剥離処置(デブライド)後、ロメワンおよび自己血清点眼治療開始後、3週間後の所見です。羞明は認められず、角膜潰瘍部と剥離した上皮は改善し、フルオレセイン染色では陰性となりました。
【図5】は4週間後の所見です。羞明はなく、角膜潰瘍部と剥離した上皮は認められません。角膜の白濁は改善しており、多数の血管退行が認められました。フルオレセイン染色では陰性となりました。
【図6】は5週間後の所見です。羞明はなく、角膜潰瘍部と剥離した上皮は認められません。
ここで本症例の当院での診療は終了となるはずでしたが1週間後に反対眼である左眼に『羞明』と『角膜上皮性剥離』が認められたということで再来院されました。
【図7】は左眼の治療開始時の所見です。角膜中央部には剥離した上皮が認められます。
【図8】と【図9】は左眼の治療開始3週間後と4週間後の所見です。
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