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スタッフのCattitude(猫に対する正しい姿勢)を向上させよう!

作成者: Vet-i Ch|Oct 15, 2024 7:57:25 AM


吉内 龍策(南大阪動物医療センター 院長)
大阪市平野区長吉長原3-5-7
URL:https://so-amc.com

猫の立場を尊重する

Cattitude =Cat+Attitude(態度、姿勢、意識、心構え)
Cattitude とは、猫に対する正しい姿勢のこと。キャット・フレンドリー・クリニック(Cat friendly Clinic)の提唱と関連して用いられた造語です。猫に対して適切な姿勢で対応するには、猫の気持ちをよく理解し、穏やかに、落ち着いて行動する必要があります。猫の扱いは、誰もが自然に身につく訳ではありませんが、誰でも習得することは可能です。まず猫について正しく理解することから始め、猫の扱いおよび保定に際しては、穏やかに接し「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」であることを理解しなければなりません。また、飼い主が猫を動物病院に連れてくるだけでも大変であることに、十分配慮することが大切です。猫が感じる恐怖には様々な要素が含まれています。

猫の恐怖行動(Fear Response)を理解しよう 

猫がキャリーケースに入れられ動物病院を受診する間に受ける様々なストレス要因を知ることは、いかにそれが猫にとって「非日常的なイベント」であり「恐怖体験」であるかを理解することにつながります。猫の恐怖行動(Fear Response)として、3つのFが現在広く知られています。Flee逃走、Freeze硬直、Fight攻撃。この恐怖行動を理解することは、個々に適した対応をするためにも必要です。

キャット・フレンドリー・クリニック認定基準 

キャット・フレンドリー・クリニック基準(※)は多岐にわたり、スタッフ教育や猫専任従事者の設置、施設や設備の基準、獣医療上のインタラクション(猫との相互関係)に関するガイドライン、キャット・フレンドリーな獣医療上の環境づくり(院内環境整備)に関するガイドラインが定められていて、3年ごとの再認定が必要です。

※isfm によって確立された国際基準の規格 isfm:International Society of Feline Medicine
 参考:JSFM Japanese Society of Feline Medicine (JSFM、ねこ医学会) (jsfm-catfriendly.com) 

キャット・フレンドリーな院内環境整備とフェリウェイ

前述のガイドラインには以下の記載があります。

キャリーケースは、猫がよく知っているニオイがし、 猫にとって安心できるものである必要がある。 猫が最も好んでいる人のニオイがする衣類、または猫が眠るときに使用しているマットなどを入れるとより安心できる。 また、猫用合成フェロモン製品(フェリウェイ® CEVA)を入手できる場合は、猫を入れる約30分前にマットやキャリーケースに直接スプレーすることで、猫がリラックスしやすくなる。

入手可能であれば、待合室および診察室内でフェイシャルフェロモンの拡散器/スプレー(フェリウェイ® CEVA)を使用することが好ましい。これにより、猫のストレスは軽減できるが、猫のことを考えた適切な設備や姿勢に取って代わるものではない。

Pereira JS, Fragoso S, Beck A, et al. Improving the feline veterinary consultation: the usefulness of Feliway spray in reducing cats’ stress. J Feline Med Surg 2016; 18: 959–964.

当センターは、今年で2回目の再認定を迎えますが、待合室、すべての診察室、処置室、入院室にはフェリウェイの拡散器を設置しています。

猫専用のクリニックを開設してからは、診察に訪れる猫たちや飼い主の方々も柔和な表情で、穏やかに時間を過ごしていただいています。FLUTDで導尿を何度も経験したルイ君は、診察室を恐怖の場所と認識しているようで、症状が改善してからも診察室は大の苦手でした。これは、恐怖体験が恐怖記憶として固定化され、恐怖体験時と一部でも同じような状況に遭遇すると、恐怖記憶が想起され、恐怖反応が表われていたのです。そこで診察時には、キャリーケースをいつもフェリウェイのそばに置いてもらうようにしたところ、鼻を紅くしてうっとりするようになりました。今では診察台の上で処置が終わるまでは賢く我慢するようになり、「終わったよ」と声をかけると嬉しそうにキャリーに自分から入ってフェリウェイを楽しんでいます。固定化された恐怖記憶の想起を回避できたのかもしれません。

病院からお家に連れて帰った時の配慮

自宅で他の同居猫と会わせる
猫は病院にいる間に、馴染みのないニオイが体についてしまいます。 それが入院であれば、よりニオイが強くなるかもしれません。自宅で他にも猫を飼っている場合には、こうしたニオイが他の猫に強い不安感を与えてしまうことがあります。帰宅した猫を他の猫と会わせる際には、緩やかに再会させていくことが推奨されます。飼い主の方には以下のような助言をしておく必要があります。

猫たちを会わせる際には、必ず双方の反応を見ていて下さい。
帰宅した猫が、他の猫から凝視され、威圧されないようにしましょう。
初めは猫同士を離しておきましょう。この間に帰宅した猫が自宅のニオイを体につけることができます。
猫のマットを病院に預けていた場合は、家に戻ったら洗って病院のニオイを取り除きます。帰宅した猫のために家のニオイがついているマットを用意しておきます。
猫たちのニオイを混ぜるために、1 匹ずつ交互に、特に顔や首回りをなでてあげると良いでしょう。また、マットを交換するのも一つの方法です。
必要であれば 1~2 日、猫たちを別々の部屋で過ごさせ、徐々に会わせていきましょう。その際にも猫たちを観察する必要があります。
家の中で多くの時間を過ごす場所に、フェイシャルフェロモンの拡散器/スプレー(フェリウェイ® CEVA)を使用しましょう。

Cattitudeは誰のため

キャット・フレンドリー・クリニックでは、飼い主向けリーフレットやキャットケアラーガイド (Cat Carer Guides)などの猫関連情報を、飼い主の方がすぐに利用できるようにしています。キャット・フレンドリーに関する理解は、飼い主の方にも、病院スタッフにもしっかり浸透している必要があります。猫の恐怖行動は、猫自身のみならず飼い主の方、病院スタッフにとっても、恐怖記憶の固定化につながり、結果として猫を病院に連れていくハードルを高くしてしまいます。言葉を換えれば、キャット・フレンドリーに配慮しないことは、猫の診療機会を奪うことに他なりません。「自分たちは十分な医療サービスを受けていない!」と猫たちの嘆き節が聞こえてきます。すべての猫オーナー、すべての動物病院がキャット・フレンドリーに前向きに取り組む日が来ることを、心から願って止みません。

南大阪動物医療センター 院長・吉内 龍策
大阪市平野区長吉長原3-5-7
URL:https://so-amc.com