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第5回 VET向け症例検討会 page02

作成者: Vet-i Ch|Sep 29, 2024 3:15:00 PM

第5回 VET向け症例検討会

集計結果と解説
縮瞳、角膜潰瘍及び白濁が認められる症例

【出題・監修】どうぶつ眼科EyeVet 小林 一郎 先生
【症例】トイプードル(アプリコット)6歳10カ月齢 メス(避妊済み)

【設問1】提示した所見より症例の原因として何を疑いますか?の集計について

角膜潰瘍の原因は外傷、睫毛異常(異所性睫毛、睫毛重生、睫毛乱生など)、眼瞼疾患(眼瞼内反、眼瞼腫瘤など)、感染など様々です。本症例の特徴である羞明は角膜潰瘍では多く認められる症状のひとつです。眼瞼周囲、角膜、眼内のいずれかに羞明の原因が存在することが多いので精査が必要です。実際には眼瞼周囲の観察、触診、STT、フルオレセイン染色、スリットランプ検査、眼内圧検査などが必要になります。睫毛異常はスリットランプ検査にて上下眼瞼および内眼角部、マイボーム腺周囲、眼瞼結膜からの異所性睫毛の有無の確認などにより精査します。角膜外傷は稟告、角膜染色、スリットランプ検査にて潰瘍の確認を実施します。感染があると黄色や緑色の眼脂や融解病変が見られることがあります。細菌培養検査や感受性試験を実施します。角膜内皮障害では一般的に角膜実質に浮腫が認められます。浮腫の原因が内皮障害によるものなのか、角膜潰瘍によるものなのかをスリットランプ検査や眼圧測定により精査していきます。

【設問2】本症例での縮瞳の原因として何を疑いますか?の集計について

縮瞳は虹彩の異常、ぶどう膜炎、腫瘍、薬物など様々な原因により認められます。
眼圧測定、一般眼科検査(対光反射、威嚇反射、Dazzle 反応)、スリットランプ検査、眼底検査が必要です。
本症例ではプロスタグランジン製剤などのような縮瞳作用のある点眼および投薬歴はないようです。
本症例では視覚も問題なく、眼底検査でも異常所見は認められませんでしたので縮瞳の原因としての視神経疾患は除外しました。
臨床では角膜潰瘍など角膜神経刺激により毛様体痙攣を伴うぶどう膜炎や縮瞳が認められることがあります。

【設問3】治療薬の処方についてどのような薬剤を選択されますか?の集計について

私はこの症例に対してデブライド処置と点眼治療を選択しました。
角膜上皮化を目的として自己血清点眼、感染予防としてロメワン点眼を使用しました。
また、私は臨床上、血清点眼を準備できない、刺激になるなどの理由から使用できない場合にはヒアルロン酸点眼を使用することが多いです。
SCCEDsに対して点眼治療と同時にデブライド処置を施しました。この処置は剥離した角膜上皮を除去し、上皮と実質の接合を促すことを目的としています。
さらに角膜格子状切開、点状切開やダイアモンドバーによる処置を同時に実施することも検討します。

【設問4】再発した原因として何を疑いますか?の集計について

SCCEDsによる再発の原因は角膜上皮と実質との接合不全と考えますが、本症例のように反対眼や同じ眼においても他の角膜領域に再発する症例に遭遇することがあります。
臨床上、その辺も含めて再発について飼い主様にしっかりとお話しておくこともポイントかと思われます。

【設問5】対処法について教えてくださいの集計について

対処法ですが私はデブライド処置、格子状角膜切開処置と点眼治療を選択することが多いです。

長期間の羞明による眼瞼内反がある症例にはコンタクトによるバンデージが効果的です。また、処置後5日以内に再診していただくことをお勧めいたします。

経験では5~7日以内に上皮化されることに伴って羞明が改善され、フルオレセイン染色でも陰性になります。

しかしながら、接合不全がある症例は再び剥離した上皮が認められます。このような場合には格子状切開など、さらなる処置が必要になる場合が多いと思います。

提示症例の診断と治療のまとめ

本症例は再発を繰り返す角膜潰瘍が主訴で来院されたのですが、反対眼にも発症してしまうという症例でした。
このような症例は臨床では稀だと思いますが、角膜上皮と実質の接合不全が原因の場合は外傷などと違いこのようなことが起こりうることを飼い主様にご理解いただくことが必要と考えます。

また、角膜潰瘍は外傷だけでなく本症例のような様々な原因があるということをあらためて考えさせられる症例かと思われます。

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